海洋瑣談:3・4月の親潮面積が過去最小
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(公財)日本海洋科学振興財団理事 東北大学名誉教授 花輪 公雄 |
2020年6月8日(月)の毎日新聞宮城版に,「親潮の面積過去最小/3,4月太平洋沖 三陸沖不漁に影響」との記事が掲載された。仙台管区気象台の観測で,3・4月の親潮面積(100メートル深で水温5℃以下の面積)が4.7万平方キロメートルと,平均値13.4万平方キロメートルの35%に過ぎず,1982年の統計開始以来,最小の面積となったことが分かったとのことである。これまでの最小面積は2016年で7.8万平方キロメートルであったので,今年,一挙に記録を更新したことになる。記事ではこの他,親潮は毎年1月ごろから南下し,3・4月に宮城沖まで達して面積が最大になること,今年は暖水渦が三陸沖に滞留し親潮が南下しにくくなっていること,暖水渦の滞留の原因は分かっていないこと,なども述べられていた。さらに,コウナゴ漁が不振で,水揚げが初めてゼロになったことも述べられていた。記事には「気象台は『親潮の変化が三陸沖など北日本の不漁に大きな影響を与えている』としている」とも紹介している。 さて,仙台管区気象台のウェブサイトには,5月28日(金)に報道発表したPDF資料が掲載されていた。資料には親潮面積の順位表(5位まで),面積の推移(ここ3年間)の図,親潮の南下状況を示す100メートル深水温分布図などが示されていた。ただし,漁との関係では,親潮に関する一般的な説明である「(親潮は)豊富な栄養塩を含み,豊かな漁場を育むことから,その消長は北日本の水産業に大きな影響を与えます」としか述べられてない。記事では一般の人が興味を持つようにと,今年のコウナゴ漁の不良と結びつけたいので,会見時に記者が質問し,気象台の方が関係はあるかもしれないなどと述べたのであろう。 私は面積最小の原因として,三陸沖に存在した暖水渦の存在とともに,この冬の偏西風の状態が大きく効いているのだろうと推測する。私は,1990年から7年間行われた農林水産省のプロジェクト「農林水産生態系を利用した地球環境変動要因の制御技術の開発」に参加し,親潮南下と冬季偏西風との関係を調べていた。その結果,亜寒帯循環系の西岸境界流である親潮の南下の程度は,亜寒帯循環系を駆動する偏西風の強弱と良い対応関係にあることを見出だした(Hanawa, 1995:北海道区水産研究所報告)。この論文はこれまで60回引用されている(Google Scholar)ので,多くの研究者が興味を持ってくれたものと思っている。実際この冬は暖冬であり,大気循環の観点から解析しても面白いかもしれない。 2020年6月20日記 |